今日はデッかい台風が僕の地元を直撃したので、心配になって連絡をとってみた。


トゥルルル…
「もしもし」
「おっ、無事だったかS」
彼は高校時代からの友人で、佐賀県筑後川の隙間にある日本国内唯一の独立国、長門石キングダムに住んでいる。
ここは橋をわたるとすぐに福岡第3の都市、久留米に出ることが出来るが、昔からの生活様式を頑なに守り続ける王国の方針が周辺自治体との軋轢を生むため、未だに独立状態にあるのだ。


なお文化交流は盛んで、久留米の学校に越境してくる例も多い。Sもその一人だ。
リアル蛍の光生活の彼らはみな一様に成績優秀で、我が附設高校でも王国出身者は一目おかれていた。


お市の反対側に位置する高良内自治領においても、自然のゲンジボタルで学習することや、高良山のキノコの塩漬で冬を越す例が知られている。


さて、とりあえずは状況を聞かねば。
「みんな生きてるかい?」
「生きてはいるけど浸水が酷いし、雨をしのぐ場所がないんだ」
ご存じのかたも多いかもしれないが、ここ長門石キングダムは竪穴式住居が主流で、屋根が藁葺きのため強風に非常に弱い。
国土面積の60%を水田が占めるため(米の自給率が世界一)排水もある程度までは可能だが、所詮は土嚢を積んだような手製の堤、決壊は避けられない。


「とりあえず久留米に出ろよ。市役所なら誰でも入れるぜ」
「アシがない」
「車を駆れよ」
ここでいう車とは勿論人力車の事である。
「ああ、それだけどよ」
ここで意外な発言が。
「こないだブリジストンが奮発してくれてさ」
「ほう」
「自動車寄付してくれたんだよ」
「なんと」
流石は久留米発の世界企業、ふとっぱらだなぁ
「やったじゃん」
「そうなんだけどさ、いざ動かそうとしたらさ」
「うん」
「シケてんだよ全部」
「は?なにが?」
「木炭がさ」
「木炭自動車かよ!」
「木炭以外の自動車って何だよ!」
はいはい。


でもまあ、無事そうで何よりだ。
九州は地盤がゆるいからねぇ。地震とかこなけりゃいいけど…
そういや附設は休校になったかな?


注:上記の文はそこはかとなくフィクションです。